| リュウさんのレース完走記その15 |
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| 2003 Waikiki Roughwater Swim Hawaii, USA 参戦記A 2003年9月1日 |
| 2003
Waikiki Roughwater Swim Hawaii, USA 参戦記@ 2003年8月31日。『2003ワイキキ・ラフウォータースイム大会』にエントリーするため、ヒルトン・ハワイアンヴィレッジ・ホテルに向かう。ハワイに到着して4日目だが、雨も風もなく実にいい天気が続いている。これは、明日の大会も好天が期待できるぞ。 さて、この水泳大会について、簡単に説明しよう。本大会は1970年に始まり、今年が第34回となる歴史ある大会だ。アイアンマンレースの起源となったのが、このワイキキ・ラフウォータースイムであり、ホノルルマラソン、オアフ島一周バイクレースと並んで3大レースと称される伝統の大会である。この大会は、世界から毎年千人以上のスイマーが集まるビッグ・レースだ。では、簡単にコースを紹介してみたい。 ワイキキビーチはオアフ島の南東部の海岸線を言い、この地区には所狭しと高級ホテルが立ち並んでいる。そのワイキキビーチの東端からさらに歩いたところにニューオータニホテルがあり、ここがスタート地点だ。まずは、ここから沖の黄色いブイを目指して南へ泳ぐ。距離は677m。そしてブイの外側を回り、西へ向かって2305m泳ぐ。観光客が大勢いるワイキキビーチの沖をひたすら泳ぐのである。最後に、ブイを旋回し、岸に向かって北上、842mを泳ぐ。ゴールは、ヒルトンホテル前の白砂のビーチだ。この合計3840m(2.384マイル)が、本大会の合計距離である。 受付のテントでは、皆が笑顔で迎えてくれる。日本語を話せるスタッフもいるから安心だ。日本からの参加は、レースチップを海外送付できない等の理由から、私のように直前のレイト・エントリーとなる。まずは、申込用紙に記入し40ドルを支払う。続いて、予想フィニッシュタイムを申告することにより、出走カテゴリーが確定する。このレースは例年1000人以上のスイマーが参加するため、AからEの5段階時差スタート方式をとっている。私は、「たぶんぎりぎりゴールです」と言ったら、即座にカテゴリーE、ゼッケン番号は「2001」となった(もちろんAが最速組)。その場でもらった説明書によると、Aが午前9時のスタート。5分おきにB、C、D組とスタートし、私が振り分けられたE組が9時20分にスタートするようだ。ついでに15ドルの大会Tシャツ(私でもMサイズ!)と、5ドルのスイムキャップを買って、「See you tomorrow!」とデスクを後にした。 2003 Waikiki Roughwater Swim Hawaii, USA 参戦記A 9月1日(LABORDAY・アメリカの勤労感謝の日)レース当日・・・。昨夜は景気づけに焼肉を食い、韓国焼酎を飲んだ。普段、レース前日は軽めの食事で済ますところだが、今回はスタミナを第一に考え焼肉をたらふく食った。さらに絶対にレース前日に酒は飲まない私なのだが、なぜか焼肉をつまみながら焼酎をロックでがんがん飲んだ。海でのロングレースなので、万が一を考え、当世に未練を残すまいとして酒をかっくらったのか・・・、はたまた、焼肉に焼酎が欠かせなかったのか、今もってわからないが非常に旨い酒であった。 余談はともかく、タクシーで家族とともにワイキキビーチの外れのカイマナ・ビーチへ向かう。ホテルの玄関に胴体のなが〜いリムジン・タクシーが止まっており、期せずして豪華な出で立ちとなった。同行の両親と妻は、車内の豪華なソファに座り、大はしゃぎ。こっちは、レースへ向かうため緊張と期待が入り混じり複雑な心境。ものの10分程度で会場に到着し、束の間の豪奢な時間は過ぎ去った。 会場には、多くの人が集まっていた。ワイキキビーチには競泳水着はいつも私一人しか居なかったのに、ここには、一体どこから沸いて出てきたのかと思うほど競泳水着スイマーが群れていた。私も早速受付に向かう。デスクでもあるのかと思いきや、公園内のやしの木にAからEのマークが貼り付けてあり、それぞれの木の下で受付だ。前日にもらった受付カードに記載してあるゼッケンナンバーをスタッフが両腕外側、両太腿前部にマジックで書き込む。続いて両ふくらはぎにEと出発組を書かれる。最後に、左足首にレースチップを巻いてもらい受付完了。あとはスタートを待つばかりだ。 早速、歩いてすぐのスタート地点に行ってみた。ごく普通のビーチだ。今日は風がすごく強い。遠浅のビーチには白波が立ち、ブイのある沖合いには大きなうねりが視認できた。今日は、どんなレースになるのかなあ。英語のアナウンスを聞いていると、今日は潮の流れがアゲインストでとてもハードなコンディションだと言っている。そうは言っても、ここまで来たら、やるしかない。緊張感も恐怖心もまったくなくなり、これから始まるビッグ・レースにただわくわくしていた。 2003 Waikiki Roughwater Swim Hawaii, USA 参戦記B A組のスタートが近づくにつれ、場内アナウンスの声もアオリ系のDJみたくなり、会場は奇声と拍手で熱気に包まれはじめた。訳せば、「千でも万でも波越えちゃおうぜ!がんがんいこうぜ!」って感じかな。日本語で言ったら、超かっこ悪いけど・・・。 プファー!A組が一斉にスタートした。B組以下のスイマーたち、ギャラリーが大喝采。奇声と拍手で凄い雰囲気。これがいいんだよなあ、アメリカの大会は。私は昨年のホノルルマラソンのスタートにも似た、米国独特の乱痴気ぶりにしばし酔いしれた。海に眼をやると、A組はすいすいと沖に向かって泳いでいく。はやい、はやい。クロールの腕だけが何百本も沖に出て行く姿を後から眺むと、それはカモメの大群が水平線のかなたへと飛んでいくようにも見え、荘厳だ。 Bがスタートする頃、私は公園内を走っていた。スタートを目前に控え、ウンちゃんが降臨奉ったのである。こんなときに、どういうこっちゃ!幸い個室は先客もなく、スムーズに用を済ますことができた。これで準備万端だ!いくぜゴー、ゴ、ゴー。足どりも軽くビーチを目指し走るジャップが1名。こいつは、今日の運を落としてしまったのか否か? C組、D組とスタートし、いよいよラストがわれらE組だ。まずは海につかってから、ゴーグルをセット。カウントダウンが始まる。沖を見やれば波は高く、依然として風も強い。とはいえ、やってみなけりゃ、わからない。すでにD組も一人残らず、沖へ出て行ってしまっている。 プファー!数百人が一斉にスタート。波打ち際を数歩走った後、ザブンと飛び込む。まずは、きばらずマイペースでスタート。右にも左にもウジャウジャ人がいる。しばらく行くと、選手同士の間隔が空いてきた。水は、そんなに冷たくなく快適だ。自分なりにはまあまあのスタートを切れた。さて、最初のブイまでは約700m。ここは20分でクリアしたいと自分では思っていた。波の力もあってか体はどんどんブイに向かって順調に近づいていく。隣りで泳ぐ選手とのバトルがないわけではないが、トライアスロンのような荒っぽいものではなく、ぶつかったら離れる程度のものだ。心地よく波に揺られていると、隣りにビキニを着た金髪女性が泳いできた。おおっ!と思っていたら、男たちが群がって近づいてきた。レース中もGALは倍率が高いようで、ビキニ女性の周囲だけは異様に混雑していた。E組は、競泳タイプの選手に混じってファン・スイムを楽しもうと参加した人たちも若干いる。(最後までは行けないとは思うが・・・) 楽しいなあと余裕をぶっかまして鼻歌気分で泳いでいたら、クロールする指に何かがガリッと当たった。サンゴ礁だ。遠浅なので、岸からすでに百メートルは離れているのにまだ浅い。ワイキキのど真ん中に比べるとここカイマナビーチ沖はすこぶる透明度が高い。 時折、顔を持ち上げて沖ブイを確認する。コースのカドには大きな円柱型のオレンジのブイ、コース上には数百メートルごとに旗を擁する小ブイが転々と浮かぶ。まずはオレンジ・ブイだけ見て泳いで行く。蛇行することもなく、いともすんなりとブイまで到達した。時計を見ると、15分58秒だった。上出来なタイムだった。このブイだけは外側を回るというのがルールだ。ぐるっと大回りで右へ曲がり、進路を南から西へと変えた。ここからはいよいよこの大会の正念場でもある2305mの直線スイムだ。なんだか気持ちがわくわくする。ただただ波のうねりが高いことだけが気にかかったが、イケイケドンドコドン状態のため「やる気」「興奮」が劣悪なレース条件より遥かに上回っていた。 2003 Waikiki Roughwater Swim Hawaii, USA 参戦記C 青く澄んだ海は海底まで数メートルはある。ここまで来ると海底の9割が白砂。所々に岩がポツポツとあり、これらが進行方向の唯一の目印。ブイを回って人がまばらに散ってからは、自分がどの方向に行けばいいのかわからなくなる。背丈以上のうねりの中をゆらゆらと揺られながら(というより、小高い丘を越えては下るの繰り返しといったほうが正しいかも)、まずはこっちと信じた方向に泳いでいく。右呼吸の私は一かきごとに顔を右に上げて泳ぎ続ける。ブレスする度に眼に入ってくるワイキキビーチの風景。斜め後方にはダイアモンドヘッド、斜め前方には鮮やかなピンク色のロイヤルハワイアンホテルの上部が見える。波のうねりの合間から見えるワイキキビーチには豆粒ほどの大きさではあるが、余暇を楽しむたくさんの人影が見える。漠然とではあるが、これら景色の位置を頭に入れながら進めば間違いなくゴールできるんだ、そう信じて泳ぎ続けた。水中に眼を移せば、周囲を泳ぐ人はまばら。10mぐらい遠くを泳ぐ人の姿もはっきりと視認できるが、すでに数人しかいない。360度見渡せる青い水中世界。その上をぽっかりと浮かび、悠々と泳ぐ。広大な自然を一人占めしたような錯覚に陥り、ハイな気分になる。うねりが激しいのだが、まったく恐怖心はない。ストレスも微塵も感じられない。ただ唯一心配なこと。それは、いまどのぐらいのスピードで、どの方向に進んでいるのかがわからないこと。しばらく泳いでいて、ある人は左斜め前へ、ある数人は直進といった風に点々ばらばらに進路をとりはじめたため、私は一体誰について行ったらいいのは皆目見当がつかなくなってしまっていた。海洋という素晴らしい世界に魅了されながらも、この時点で「海」という巨大な生き物に丸呑みにされてしまっていることには未だ全く気づいていなかった。 1時間が過ぎ、なおも勢い衰えることなく泳ぎ続ける私。気になることが一つ。ブイを回ってから景色がまったく変わっていない。予定では、すでにピンクのホテルは真横に来てもいいはずなのだが、依然として右斜め前にあった。スタートライン近くのダイアモンドヘッドもまだ目の前からあまり離れていない。これは、どういうことか・・・。数百メートルごとに置かれているブイはどこだ!。よく考えてみれば、一つめのカドに立てられた旋回用の大ブイを過ぎてから、まだ一つも小ブイを通過していない・・・。必死になって次の小ブイを探そうにも、波が高くて見つけられない。そんなとき、右斜め後方に黄色い大きなブイを発見した。そこには、黒いものがいくつも付いていた。よく見ると、それは人だった。「あれは、レースを諦めた人たちに違いない。きっと、泳げないのに参加しちゃったんだ」。正直、そう思った。「俺は違う。きちんと練習を積んできたスイマーだ。最後まで行くんだ」。やる気は上々。またも、かっ飛ばして泳ぐ。「それにしても、まだ1キロぐらいか・・・。全然進んでないんだなあ」 時折すうっと前へ進むんだが、それ以外の8割は立ち往生しているような気がする。なかなか前へは進まない・・・。この日のレース環境の悪さを、このあたりでやっと認識できるようになった。すでに何人もの人が目の前でボートに救助されている。私も何度となくカヌーに乗るスタッフに声をかけられる。その度に「I’m OK!」と答え、ひた泳ぐ。 泳ぎはじめて1時間30分。やっとのことで4番ブイの横を通り過ぎた。最初の7百メートル地点の黄色い大ブイが3番、そして数百メートル前方の今ここにある旗が4番ブイ。単純に考えると、残り3千mはある。残された時間は1時間・・・。この2千3百mの直進路を終えて、再度右に旋回するための大ブイは13番と事前に聞いていたが、そこまで辿りつけるかも危うくなった。だが、この時点では「諦め」がさし挟まる隙間は、私の心のどこにも見当たらなかった。ただただ、必死に泳いだ。「フィニッシュできる」と信じていた。 2003 Waikiki Roughwater Swim Hawaii, USA 参戦記D 海の奥底。進路の前方より黒い紙のようなものがゆらゆらと現れた。なんじゃ、これは。最初は、ごみかなんかが流れてきたのかと思ったが、それは「エイ」だった。両のヒレを優雅に揺らしながら、黒いそれはいとも簡単に私の真下をくぐり抜け消えて行った。その泳ぐさまは本当に美しかった。 しばし泳ぐと海底ケーブルが眼に飛び込んできた。「もしかして!」・・・。そのケーブルは泳ぎ始めて30分ぐらいの時に一度見たものと酷似していた。はっとして、平泳ぎをしながら周囲の景色を確認。なんと・・・。 ダイアモンドヘッドが再び目の前に近づいていた。そして、海上には黄色い3番ブイが・・・。このとき、確実に自分が前進していない、いや、後退していることに気づいた。泳ぎはじめて、はや1時間40分以上が過ぎていた。うねりは益々高さを増し、そればかりか強い海流が知らぬ間に私の体を後方に導いている。いつしか救助ボートやカヌーの数が周囲に増えている。頭上には爆音とともにヘリコプターが救助ロープをぶら下げながら旋回している。周囲の人は次々とレースを諦め、ボートに乗り込んでいく。本当に周囲を泳ぐ選手がいなくなった。泳いでいるのは、もう数人に違いない。数台のボート上にすでに収容された選手の視線が気になる。なんとなく状況が理解できてきた。私はいまデッドライン上にいるのではないかということを否が応でも知ることができた。 だが、不思議と自分からリタイアしようとは思わなかった。もう2時間近く泳ぎ続けているのだが、正直言って気分は最高だったのだ。ただ前に進んでいないというだけで、泳いでいる自分としては海原に漂っている心地よさに終始酔いしれていたのである。 「こうなったら、最後まで泳いでやる」 やる気は衰えることを知らず、腕を回せば回すほど、足をばたつかせればばたつかせるほど、その雄大な世界に順応していく極めて主観的な満足感がそこにあった。 2時間が過ぎようとしたそのとき、方向修正のため平泳ぎに切り替えた私の前方にモーターボートがすうっと回りこんできて、私の進路をふさいだ。そのボート上にいる大会スタッフが両の手で大きく×を出している。いよいよ、このときが来てしまった。 まずは、私の側方で泳いでいた中年アメリカ人男性がボートに引き上げられた。そして、私も・・・。ボートには男性ばかり4〜5人が収容されていた。だが、その誰もが底抜けの笑顔で、悲愴感のかけらもなかった。私自身、リタイアする悔しさより、海を泳げなくなるさびしさのほうが強かったのはなぜだろう。 私はフィニッシュ以外の満足感がそこにあるとは、当初思ってもみなかった。ファン・スイマーの私にとって、異国の外洋で2時間も漂い、何一つ苦しむことなく最後まで海の美しさに魅了され続けたことが何よりの思い出となった。 来年も、私はこの大会に挑戦しようと思う。楽しみながらフィニッシュラインを越えることを夢見て、向こう一年間練習を続けるつもりだ。 おわり。 |