| リュウさんのレース完走記その8 |
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| 鬼怒川・川治温泉龍王マラソン走録 2002年7月14日 |
| 鬼怒川・川治温泉龍王マラソン走録@「挑戦のはじまり」 レース前々日、TEAM飲み屋が散会しようとしたそのとき、ピロさんが言った。「これまでのベストは自分が作った事実。これを越えられないわけがない。これを越えていかなければいけない」。加賀廣からの帰り道、この言葉を胸に、ほろ酔い気分で自転車をころがしながら考えた。 前回のハーフは鹿沼。これが自己ベストであり、ピロさんにリードしてもらって達成した1時間39分39秒の記録。当初の目標タイムを達成できたのだが、反省する点も多かった。ペース配分、コース理解不足、終盤の失速…。「前回の記録に、こうした反省材料を加味すれば、再度、記録を更新できるかもしれない」。ピロさん流に表現すれば、「できて当然」と言い切らねばならぬか。鹿沼ハーフからはすでに50日が経過しており、その間、自分なりに練習は積んできたので、多少の怪我はあるものの経緯は順調と言っていい。周囲からは、夏のレースは…と懸念する声も多い。鬼怒川はアップダウンがないわけもないだろう。だが、「自分なりに行けるところまで行ってみよう」と思った。無謀な賭けかもしれないが、やる気にあふれていたのにはもう一つ理由がある。サロマを完走されたタイガさん、ゴンちゃんの存在である。走り屋入会以来、存在自体が支えとなったこの両氏を前にして、「暑いから…」等々の言い訳を携えて当日を迎えることは憚られた。「ハーフで暑い、坂がきついなどと言うのは、百キロ完走者を前にして失礼だ」、そう思った。たかが1時間30分そこらの問題だ。やってみよう。キロ4分30秒平均でゴールすれば、1時間35分でゴールできる。かくして、夏のさなかの「挑戦」が始まった。 鬼怒川・川治温泉龍王マラソン走録A「コース下見」 レース前日はペンション鬼怒川に泊まった。到着後、小雨がぱらつく中、30分ほどジョグした。今回のコースは鬼怒川温泉駅前を出発し1キロほど走る。南北に走る鬼怒川有料道路のドテッ腹にT字型に突き当たったら、これを左右に行ったり来たり往復して、最後に再び駅前へ1キロ戻りゴールとなる。まずは、最初の1キロ部分を走る。駅前からゆるい坂を下っていく。坂はだんだんと急になる。有料道路入口手前の立岩橋がコース最下部で、そこまでは下りが続く。その先はループを上り高台の有料道路に接続となる。立岩橋は鬼怒川渓谷にかかる橋でとても見晴らしが良い。軽く流して走っていると、川向こうの橋際にホテルがあり、その渓谷側の壁(橋から数m下)に煌煌と明かりがともっている。橋を渡りきろうとしたとき、私の目に飛び込んできたのは、このホテルの露天風呂。橋側の明かりの下の素っ裸の親父衆、仕切板の向こう側の明かりの下はおばちゃん達の湯浴みする○○。これは覗くとかそんな大それたことではなく、普通に歩いていても目に入ってしまう位置にあるのだ。翌日、アキさんにこのことを話すと、単なるエロ話と勘違いされて困惑した。 ループ手前まで行き、川向こうを走る。温泉郷鬼怒川といっても、現在はまさしく「兵どもが夢のあと」という雰囲気だ。土曜日でありながら、一時の盛況はまったく見られず人通りもまばらだ。日も暮れてきたので、コンビニで翌日の朝食を買い込みペンションへ戻る。 ペンションに戻ると一階のレストランでは早くも夕食を食べはじめた宿泊客が十人以上いた。部屋に戻り、朝食を置いてから私も夕食へ。座ったテーブルの向かい席には、同じく一人で宿泊する若い男性(イノさん)がいた。「はじめまして」とばかり挨拶を交わし、二言目は「明日走るんですか?」「ええ」とマラソン話になった。彼も明日走るのである。向こうの家族連れや若者同士のテーブルも皆、明日マラソンに参加する人たちのようだ。それもそうだろう。鬼怒川まで来てペンションに泊まるというのは、「訳あり」に決まってる。普通は温泉宿に泊まるはず。このペンションはただ単にスタート地点にめちゃくちゃ近いだけ。詳細は特筆に価しない宿なので省略。 さて、夕食を終え、イノさんと私は意気投合しペンション紹介のホテルの大浴場へ向かう。ホテル白川の大浴場だ。十分ほど歩き到着。五百円払って、お風呂へ直行。そこで、先ほど別のテーブルで娘さんと二人で食事をしていたハセさんがいたので声をかけてみる。ハセさんは、いかにもランナーという格好いい人。私はどこかで見かけた覚えがある。駅伝カーニバルなどにも参加していたというから、ほぼ間違いない。ハーフは1時間半、10Kは35分ぐらいで走るそうだ。いっぽう、イノさんはハーフ2回目。前回は2時間以上かかったので、鬼怒川の制限時間2時間を目標にしての参加だ。露天風呂でマラソン話に華が咲いた。帰りは雨が降っていた。雨は午後9時の就寝時も降りつづいていた。 鬼怒川・川治温泉龍王マラソン走録B「情報収集。そして、スタート」 レース当日。朝4時に起床。雨は降っていない。暑くも涼しくもない蒸し蒸しした陽気だ。スタートまではあと3時間ある。まずは厚焼きたまご、菓子パン2個、バナナケーキを食べる。だらだら支度して5時に受付へ出向く。受付は藤原文化会館前と書いてあったが、何のことはない鬼怒川温泉駅前ロータリーのことだ。ぶらぶら歩いていると、アキさんが車で到着したので、受付に同行。その後、ペンションに戻り車を止め、部屋で寛ぐ。私が出るハーフのスタートは7時、アキさんの10Kは7時55分。アキさんは日帰り参加としたので、夜中に埼玉を出て車で来た。イノさんを紹介し、3人で6時過ぎからアップした。15分ほど走ってスタート地点へ。ピンクのランシャツはとにかく目立つ。他にもランシャツを着た人たちはたくさんいたが、間違いなく私の着るピンクが際立って派手。すかさず、早そうなおじさんが声をかけてくる。鬼怒川初参加であることを告げると、コース形状と走るコツを伝授してくれた。有料道路の上は傾斜があって下りで脚を使ってしまうと(飛ばすと)折り返した後の上りが辛くなるから要注意だそうだ。このアドバイスが後にレース展開を決める決定打になろうとは…。いろいろな人と話し、情報収集することの意味を初めて悟った。 スタートの時が近づく。最前から3メートルぐらいの位置に陣取る。ハーフは3百人ぐらいしかランナーがいないので混雑はないが、「中大」とかいかにも早そうなシャツを着た本格派ランナーもいる。ランシャツ、ランパンで格好良く決めているランナーの中で焼芋のように太くて、毛がもじゃもじゃ生えてる不恰好な脚を持つのは私だけだ。毎度のことながらカッチョ悪いなあと思う。だが、いまさらモモヒキはいて隠すわけにもいくまい。開き直ってスタートを待つ。今回でハーフ4回目。考えてみれば、初の単独ハーフ走だ。いつもなら心臓バクバクなのだが、今日は意外にも冷静。やっと入れ込まずにスタートできるようになった(ちょっと競馬用語使いました)。さあ、いよいよカウントダウン。「パン!」。夏の爽やかな朝、鬼怒川温泉郷をランナーが駆け出した。 鬼怒川・川治温泉龍王マラソン走録C「レース1・キヌコとデッドヒート」 まずは、ゆるやかな下り。「今日は飛ばさず4分30秒平均でハーフを走ろう。そうすれば1時間35分でゴールできるはずだ」とは、レース前に自分が決めた目標。いつもは最初の1キロを4分前後(明らかに実力以上ペース)で突っ走っちゃうところだが、今日は下り坂で脚が早まるのをぐっと抑えて走る。周囲を見回し同じぐらいのスピードの人を数人みつける。信号を右折し立岩橋まで一気に駆け下りる。橋を越え、すぐに有料道路への急なループを上る。リズムを崩さず上りきり、まずは有料道路を南へ下る。ちょっと走って時計を見ると、5分を越えている。「おや?」。ここで、このレースに距離表示がないことに初めて気づく。ラップなしで走るのは初めての経験。ペースがわからず、走り辛い。かといって、レースを捨てるわけにはいかない。まずは周囲の人に遅れまいと走る。私の前には青いランシャツ、ランパンの165センチぐらいの大柄な女性(鬼怒川キヌコ)が走っている。この人はリズムも良く、ペースもしっかりしているので追走ターゲットとした。もう一人、ガタピシさんも同じペースで走っている。このおじさん、身長は約165センチ、歳は60ぐらいで痩せ型。フォームがめちゃくちゃで、もんどり打って走っているようにみえる。足音もドンガラガッタ、ドンガラガッタといった感じで、聞いているだけで息切れがする。このおじさんを意識すると腹痛を起こしそうなので、極力見ないようにする。すぐにトンネルにさしかかる。右にゆるやかにカーブしながら下っていく。路面は濡れていて滑りそうだ。気をつけて走る。七、八百メートルはあるトンネルを出るとすぐ有料道路ゲートだ。これを越えると折り返し地点までは約2キロの単調な下りだ。その途中で給水を受ける。ぬるい水だったが、きちんと補給。ピロさんに教わったとおり、両手で1個ずつカップの口をつまむように取り、1杯飲み、1杯首にかけた。給水はこれを繰り返した。今日も元気に「ずぶ濡れラン」だ。しばらく走り南側折り返しに至る。その折り返しポールに「10キロ折り返し地点」とあった。すかさず腕時計のラップボタンを押す。21分54秒だ。10キロの折り返し、これは私が現在5キロポイントにいることを表していた。キロ4分23秒と、予定の4分半より若干早いタイムだが、私は計算を間違えペースを若干上げた。 鬼怒川・川治温泉龍王マラソン走録D「レース2・野田おじさん現る」 折り返した後も、ひたすらキヌコを追走した。「上りは体軸より前で腕を振る」という走法を本で読んだので、はじめて実践すると気持ち良く走れた。トンネル前でキヌコに並走した後、私が前に出る。上り勾配が結構きつかったので路面を見ながら手を大きく振って無心で走る。ここで2人に抜かれる。私は顔を上げずに、ひたすら自分の脚元だけをみつめて走っていたので、誰が抜いていったかは確認しなかった。トンネルを出て、周囲がぱっと明るくなると同時に頭を上げた。「あれれ?」。トンネル内ではまったく意識してなかったが、私を抜いて行った一人は何と青シャツのキヌコだったのである。気がついたときには十メートル近く離されていた。「しまった。このまま、離されていくだけか…」。これまでのレースでもターゲットを決めたことがある。だが、その誰をも追走し続けることができず、数キロのうちに離された。これはいつも自分が実力以上の速さで飛び出してしまい、ペースを維持できずに失速したことに他ならない。ほんとにこれまでついていけた試しがないのだ。「また、さよならか…。今日は平均ペースでいけると思ったのになあ」。自分のケアレスミスに嫌気がさす。だが、私は一寸の希望に賭けた。「上りは苦手ではないはず。今日は抑えて走っていることだし、じりじりと上がれば追いつくかも」。ここでは自分のリズムだけを信じて走った。しばらく景色を見ながら深呼吸し、レースを楽しみながら走った。北側の折り返し地点直前でキヌコをとらえ、前へ出ることができた。後からすうっと「野田楽走会」ランシャツのおじさんがピッチ走法で現れる。実に軽快な走りだ。「今日は初めて早いスピードで走ってるんですよ。今までは1時間50分が最高なんです」とおじさん。「え?」と私は思った。この走りは1時間40分を切るペースだ。そんなに一気に早くなるものだろうか。もしかして、私が遅いのか。ラップもとれず、何だかよくわからなかったが、たわいもない話をしながらトンネル前まで一緒に坂を下ってきた。ここで野田おじさんが会話をピタリとやめ、ピッチを早めてトンネルへ先行。キヌコは私の真後ろにいる。おそらく、キヌコは私をターゲットにしているはず。他にも数人が塊となってトンネルに入る。ガタピシさんもいる。かぶり水と濡れた路面で、右シューズの中がグチャ濡れになってしまった。「なんだかキモイって感じ〜っ」。トンネルの出際で、先頭ランナーが反対車線の上り勾配をゴール目指して駆け抜けて行った(「ようし、来年は俺が…」などとは、これっぽっちも考えなかった)。 鬼怒川・川治温泉龍王マラソン走録E「レース3・一走一善」 さて、野田おじさんが前を行く展開のまま、我々小集団はトンネルを出る。「トンネルを抜けると、そこは南国だった」とばかり、ギラギラ夏の陽射しが照りつけはじめた。涼しかった陽気に終止符が打たれる。これを心配してか、有料道路ゲート手前の上りランナー給水所のおじさんが親切なことに下りのランナーに両手でコップを差し出している。私は迷わずコップを2つ受け取った。すると、後で「ええ〜っ!」と女性の声。それがキヌコであることはすぐにわかった。キヌコは私がとったコップを一つ狙っていたのだ。水を取り損なった時のショックは大きい。私は左手の水を飲みながら、後を振り向きおもむろに右手のコップをキヌコに差し出した。キヌコは「あ、すいませ〜ん」と、小走りで歩みよりコップをしっかり受け取った。私はここでちょっと離された野田おじさんを猛烈に追いかけた。一日一善を達成した私は心が軽く、不思議に脚も軽くなった。ペースを上げたら、あっという間に野田おじさんを追い抜いてしまった。やっぱり善行をするもんだと実感。ガタピシさんは元気いっぱいで、ドンガラドンガラ、腕をあっちゃこっちゃ振り乱しながら、前を走っている。なんだかわからんが速いのである。このあたりから、55分遅れでスタートした10キロ走者が現れはじめる。我々ハーフ組はオレンジのゼッケン、10Kは白。さて、2回目の南側折り返し地点をぐるりと廻り、最後の上りに入る。すぐに私の後ろを走る野田おじさんと直面、その後にキヌコ。私と二人その差は15mぐらいか。ここはお互い頑張りどころだ。私は、ここで前方10mを走る鉢巻オヤジに照準を合わせる。このオヤジはなかなかいいリズムだ。よし、追走だ。ガタピシおじさんも前方で他のランナーとおしゃべりランに興じている。ここで、折り返しに向かうアキさんと出会う。速い。アキさんはキロ5分で走ると宣言していながら、5キロ直手前を22分台で走っている。私も頑張らなければ、と気合いを入れる。 鬼怒川・川治温泉龍王マラソン走録F「レース4・ゴールへ」 「泣いても笑っても、あと5キロ。20分ちょっとだ。この苦しさは、サロマの先輩たちとは比較にならないんだ」。私はペースを少しだけ上げた。脚はまだ元気だ。「イッチ、ニッ、イッチ、ニッ…」。すいかマラソンでゴンちゃんに教えてもらったリズムを回想する。これをキープしながら呼吸を整える。じりじりと上がりながら有料道路ゲート手前のこのコース一番の勾配に差し掛かる。ガタピシさんをロックオン!その横をわき目もふらず追い抜く。ガタピシさんは隣のランナーに「上りなのに強いなあ」と呟いていた。ドンガラ走りのガタピシさんとは、これが最後の別れとなり、レース後も会うことはなかった。さあ、あとは鉢巻オヤジだ。オヤジは快調にペースを上げている。なかなか追いつかない。トンネルの入口に係員がいる。「あと、2キロだ。頑張れ!」。この声をきっかけに脚を早める。トンネルは有料道路上りの最終ステージ。太陽がないので涼しく、オレンジ一色で集中しやすい。リズムだけを守って走る。確実にペースが上がっている。10Kランナーに数人追い抜かれるが、リズムは変えなかった。トンネルを出たところで鉢巻オヤジのペースが落ちた。「いまだ!」。下りスロープにさしかかり、オヤジをロックオン!じりじりと上げペースで寄って行く。立岩橋手前でオヤジの前へ出る。全力で橋を駆け抜け、後を振り向くと、遠くにオヤジが見えた。キヌコの影は見えなかった。ペースを落とさず、最後の上り五百メートルをリズム良く走る。今日は脚が重くない。信号を左折し、ラスト約3百メートル。数人抜き、いいリズムで脚を運ぶ。ゴール百メートル手前から応援の歓声が増える。ゴールアーチ直前で、最後に抜きたいおじさん一人をロックオン!ところが数メートル手前で振り向いたこのおじさんが猛スパート。首差で負けてしまった。ゴールした後、このおじさんと思わず「お疲れ様でしたあ!」と両手で握手してしまった。おじさんの勝利の微笑みは爽やかだった。(のちの速報で、このおじさんとは同タイムと判明。なのに、順位は間違ってなかった。写真判定でもしてんのかな?) 大汗をだらだら垂らしながら記録証コーナーへ。係員の女子高生が私のゼッケンを見てパソコンを叩く。「あれっ?」。私の時だけプリンターが動かない。再度、女の子が印刷ボタンを押す。「mm…」。女子高生の顔がひきつる。もしかして記録なし?とイヤな予感が脳裏を走る。すかさず隣の席のオバチャンが自分のパソコンを叩く。また出ない。ありゃりゃ、これはまずいぞ、と思った瞬間、ビビーッと動いた。「ああ、よかった〜」と思わず言ってしまうと、女子高生の顔にも笑顔が戻った。汗びちょの手で記録証を受け取ると「1時間36分24秒」とあった。給水所で冷たい水を何杯も飲んで寛ぐ。しばらくして、後を振り向くと、キヌコが目の前にいた。「お疲れ様でした!」と私から声をかけると、「先ほどはありがとうございました」とキヌコ。「途中からスピードが落ちちゃって…」。やはり、最後の上り坂で失速したようだ。しかし、キヌコは爽やかな表情だ。レースって終わってみれば勝ちも負けもないなあとつくづく思う。キヌコがレースを楽しんだことは、その表情から明らかだった。「記録見せてください」とキヌコが元気良く歩み寄る。お互いに記録証を見せ合う。なんか昔からの友達みたいに親近感がわいた。タイム差は3分だった。最後の5キロで3分も差がついてしまったのだ。1時間以上一緒に走っていたので、なんだか気の毒にも思う。でも、こうして課題を発見するのもレースの醍醐味。私自身、5月の鹿沼で失速して、これを解決すべく練習した結果がこのタイム、この楽しさだった。しばらくレースの話をした後、お互い「また一緒に走りましょう」と再会(再走?)を願い、笑顔で別れた。 |