| はじめさんのレース完走記その1 |
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| 渡良瀬フルマラソン走録 2002年11月10日 |
| 渡良瀬フルマラソン走録 其の1:出走前夜〜スタート 「し、しもたあ…。」人生初のフルマラソンを翌日に控え、夕暮れの荒川土手で、私は一人途方に暮れていた。前々夜あたりから、緊張のためか眠りが浅い。「直前も少しくらいは体を動かした方が云々」と、何かで読んだ気もして、実家までの片道20kmをMTBで繰り出した帰りでのことだ。上野でパスタ大盛りとビールをいただき、「はいカーボOK、オサケOK。」と指差し確認をして、最後の調整のつもりだったのだが…。 とにかくすごい向かい風。それを遮るものもない河原のため、いくら漕いでも前に進まない。ハッキリ言って、ロードしたカーボはここで使い尽くしたねぼかあ。結構な筋肉痛もおまけに付いてきた。当然、家では大騒ぎ。ヨメに「高いんだからね!」と叱られながら女性用の肌色薄型サロンパスをせしめ、足じゅうにペタペタと貼りつけた。寝る時には座布団で足を高くする徹底ぶりだが…「ね、寝れねえじゃんか。」慣れないことはするもんじゃない、緊張と相まって逆効果もいいとこ。30分で座布団をどかした。「眠らなければ…。」 混み合う居酒屋の店内で、ぼくは柱を背にしてバイトの女の子に指示を出している。頭には紙の帽子、エプロンをして、どうやらそこの店長らしい。「ハイ、毎度ありーっす!」電卓を取り出し、叩く。「えー、キロ5:40で35キロ地点では〜〜、5:30で〜〜、5分で行けるとこまで?ハイよろこんでー!」ハッとして目が覚めた。おかしな夢を見るもんだ。むしろ、半分眠って残りの半分がシャッキリしちゃった感じ。(翌朝聞いたのだが、リュウ先輩も似たようなもんだったらしい。彼はツアコン時代に戻った夢で、台湾でタイム計算していたらしい。わはは、他人事だと笑える。) そんなこんなで白々と夜は明けた。もう逃げも隠れもできない「その日」がきたのである。まずはいつも通りラジオの電源を入れ、窓際の机に取り調べ中のタチヒロシ風に腰掛け(ここ、大事ね。イスじゃなくて机なのね。浅く、斜めにね。)「ダバダ〜……って、どおわあー!!(ここからさまぁーず口調)やっちゃったよ何だよこれ、コーヒーだよ、飲んじゃったよマグカップ一杯かよ!利尿作用だよウワサの!出ちゃうよ!」習慣で飲んでしまった、アスリートに慣れないアタシ。ばかね、ばかね、よせばいいーのに〜。 東川口の駅では、てっきり健康福祉村でイベントでもあるのかと思った。やたらとジャージ姿の人が目に付く。中年の男性が圧倒的に多い。ところがこの人達が一様に、自分と同じく、南越谷で東武線に乗り換えるんだな。試しに切符を買うのを覗いてみたら、570円。渡良瀬フルマラソンの会場がある、柳生駅までの運賃である。「ひょえーっ」たまげた。「このオッチャン達、みんな今日オレと一緒に走るんだ。つーかおれ、そんなおっきなスポーツイベントに参加するのかあ。」正直、帰るなら今だと思わないでもないが、とりあえずはリュウさん夫妻と約束した、東武線のホームまで行こう。時間になって2人が来なければ、そのせいにして帰ろう。まったく、時間にルーズなんだから。困ったモンだよまったく…。 いやがった。「おはようっす」挨拶を交わし、ちょっと無理やりのハイテンションで言葉を交わした。「すごいね、それっぽい人が沢山いるよ。でもオジさんが多いね。」「そこら中ボクロンさんに見えるよ。ボクボクだね!」「まさにメルシー・ボクー」寒い、いつにも増して寒すぎる。おまけに、言った当人が2人とも、緊張から笑顔が引きつっている。大口開けて笑っているのは、応援に来てくれたチーさんだけだ。 そして、東武線準急のドアは閉ざされた。途中ヒデさんとボクロンさんも乗車してきて、俄然気持ちが勇気付けられると同時に、ぼくのボルテージも上がってきた。この時間にしては車内はシャカシャカと異様に混んでいる。そう、ジャージ率が高くて、なんだかシャカシャカしいのだ。ヒデさんと隣り合って座った。初対面だが、2人ともフル初挑戦とあって話が尽きない。多分心のどこかに、紛らわせていたい気持ちがあるのだろう。ぼくなど、矢継ぎ早に自分のこと、走り始めた生活、ここまでの経緯などを語り倒した。ヒデさんは紳士的に聞き役に回ってくれる。そうこんな時、ああ仲間っていいなあ、ありがたいなあ、と素直に思える。 会場にはあっけない程簡単に着いた。ここでワグさん、その友人のキヨシ君と合流。かなり気合の入った表情だ。聞けばこの1週間、(あのワグちゃんが!)好きなお酒を抜いていたとのこと。でも誰も信じていない様子。無論おいらも信じないもんね。でも、「この男、今日はやりそうだな」って雰囲気がムンムンしてる。 ここで、朝の失敗が意外な方向に働き出した。伸脚ストレッチをしているとモゾ、反対の脚に替えてムラ、また反対で「モリモリ」、おおっ(←店長のマネ)「なんかいい感じい〜」きてますきてます、便ちゃん。これもコーヒーのおかげか?パアっと晴れやかな気持ちになった。ここでスッキリしておけば、さぞかし足取りも軽かろう。早速簡易トイレに並ぶが、お馴染みの行列。待つ間もやたらと伸脚をするが、もう脚は伸び切っている。そう、決してそのためではないのだった。そして…「おめでとうございます、元気なお子さんですよー」オッケー!!着替えのために待ち合わせ場所に戻ったが、既にスタート10分前。走り屋の仲間も緊張した面持ちですれ違う。リュウ先輩が「おんまえ早くしろよー!」 「いや、いいの出たよー」さすがに、誰にも相手にされない。いいんだい、ここだけの話、大学受験の時もウ○コちゃんして来たところは全部受かったんだもんね。でもこういうジンクスって、言うと効果薄まるっていうからな。 やっぱり晴れの舞台、初フルも始まりは汚れ系…。 つづく。 渡良瀬フルマラソン走録 其の2:0〜25km そんなこんなで気がついたらスタート直前。慌てて、すでにスタンバっている走り屋の仲間を探すが、とにかくすごい人の数だ。これもウンコちゃんの余裕だろうか、圧倒されるというより、お祭りのような雰囲気、あるいは、師走のアメ横のようなせかせか、そわそわした気分に感じられた。人ごみの中にボクロンさんの姿を見つけ、スタートは付き合ってもらうことにする。初舞台で、大ベテランの先輩と走り出せるのは、何よりも心強い。 「スタートはすごい音とかすんのかなあ、チビらないように気をつけねば。緊張すんだろうなあ…お、お、周りが軽いジョグに入ったぞ。」と思ったらそれが始まりだった。いつの間にかスタートしていたらしい。とにかく周りは、人、ひと、ヒト。ぼくが並んでいたくらい後方からスタートすると、あっけないくらい緊張感はない。例えるなら「大勢の人が同時にジョギングを始めた」感じ。これまでレース経験は流山の10kmが唯一だが、それに較べると、あの息苦しい、胃のあたりがキュンとくる感覚、眉間のシワ度が随分と軽い感じがする。そりゃそうだよな、今日はその4倍以上、あわよくば4時間以内が目標だ。そんなに長いこと眉間に皺寄せたら、ゴールする頃にはゴルゴ13になってしまう。もちろん、サブスリーを狙って前方に並んだワグさんの辺りは、きっとこんなに牧歌的ではないのだろう。前髪が更におっ立っていることだろう。ゴール後、彼がスナイパーに転身しないようひそかに祈る。 しかし、いつまで経ってもスタート地点のゲートがくぐれない。正月の明治神宮みたいだ。 はて? 「ぼくは、もう走り出したワケで。時計は動いてるワケで。でも、あそこから42.195、なワケで…」ななななんと、ただでさえ遅いのに、丸損ぶっこきではないか!1分は損した、そこんとこどうしてくれんだオイ?責任者出て来い! 急速に動揺したわたくしは、一刻も早くゲートに到達するため、周囲のランナーを交わすべくバッタのような反復横飛びを開始した。そこでボクロンさんの冷静な一言「脚につけたチップで、一人ずつあそこから計ってんだよね。」なあんだ、けったいな物を足に付けさすと思ったら、そういうことなのね。良かった。しかし今の横飛びで、激しく疲れたぞ動揺して20mは余分に走ったぞ。そこんとこ一つ、ゴール地点ではオマケしてくれい。頼む。 愛想をつかしたのか、いつの間にかボクロンさんは姿を消していた。ヒデさんも後ろから、軽快に去っていった。「さよならだけが人生さ。」と、寂しかったのはほんの2秒。まあ半分以上やっかみで言わしてもらえば、長い道中、オヤジの脚ばっか眺めて走るのも芸がない(失礼!)。スタートしてはや4キロ。今のところラップは、キロ5:20と好調である。できる限り維持したい。「ペースメーカーを探そう。最低2人」次第に形成されつつある集団の、ランナーを物色することにした。まずは冷静に、ペースメーカーの要件を頭で整理する。@経験が豊富そう A息が乱れていない B歩幅が一定 Cキロ表示毎にラップを取っている D家庭的 E料理が得意 F趣味はピアノとテニス G愛読書はJJ。TJは不可。 ざっとこんなところか。探すのにそう苦労はしないだろう。 幸せの青いトリは、すぐ近所に見つかった。正確にいうと、それ以外の人は速そうでついてく自信がない。一人は、20代と思しき小柄な女性。慣れてる様子で、1km毎のラップも時計を見ずに着実に取っている。多分ぼくと同じく、5:30を目安にしていると見た…と、そんな分析は実は2の次で、ほんとのこというと、なんかこう、ほんわかと「守ってあげたくなるタイプ」なのですね。「大丈夫、すぐそばでオニイサンが見守っているよ。それ、イチ、ニ」って、世話になってるのはあんたでしょ。ともあれ、ある意味近くで走っていて実に気分がよろしい。セクハラ ストーカー走りにならないよう、まずはお友達からの距離を保ってついていくことにした。 もう一人は、命名「ぶるうたす君」。年の頃は同じくらいか。とにかく、濃い。はじめて真横に現れた時には、思わず走りながら前後左右に移動して、つぶさに観察してしまった。「この人、ワセリンとかいらないんだろうな。」体中から天然モノが豊富に湧いてきそうな人だ。胸板は軽くぼくの2倍はある。一体こんなのどこで売ってるのだろう、細いところで5センチ幅くらいまで背中の切れ込んだランシャツから、ぶっといムキムキ肩と腕が突き出している。下はアメリカ国旗模様のスパッツで、これも、我々チーム走り屋チョッコリ軍団のように、「シャツを外に出す」弱気な態度は見せず、しっかりとたくしこんでバッキリのモッコシ。更にさらに、浅黒い顔は彫りも深く、ふたえに長いマツゲ。時折この長い睫毛を苦しげにうるませ、圧巻は手の振り。右手は固定して、左手だけが、まるで黒人ジャズミュージシャンがリズムを取るようなセクシーな動きだ。全体として、かなりホ×っぽい。 本音を言うと、この時点で最初の原則など忘れ、ペースメーカーは1人に絞った。自分の中で。だが、私を含むなぜかこの3人だけ、歩調が合ってしまうのだ。結局、偶然居合わせたこのヘンテコな3人組で、25キロ地点まで走り続けた。 ぶるうたす君とは、コース途中人気のないところで2人きりになってしまったら…どうしようアタシ恐い、おかあさーん!、という一抹の不安もあったが、助けられた点もあった。まず、何だか、近くにいるとあたたかい。体感温度2度くらい。それと、風よけ効果である。スタートから一貫して強い風が吹いていたが、これが、走る方角によって四方から吹き付けてくる。だから、その度に風上に彼をおいて壁になってもらい、寒い時には近寄ってヌクヌクと走らせてもらった。彼にとっては、さぞかし鬱陶しかったことだろう。 そんな姑息な手段など見向きもせず、前方の女性は時々顔をしかめながらも、着実に歩を進めている。「お、おれって卑怯モノ?」昔からわたしは、女性の前では常に品行方正、清く正しい正義の味方、の振りをする。だからヌクヌクヌルヌルのぶるうたす君から離れ、その女性の後を追うことにした。ところが、よっぽどペースが同じなのか、それとも先程つきまとって、ハートに火をつけてしまったのか。縦になって走る「守ってあげたいおさえちゃん(勝手に命名)」とぼくとの間に、やたらと割り込んでくるんだな、ぶるうたすが。「わ、よせ、ぶるうたす寄るな、暑い。何より美しい視界に入るな、こら、ぶる。」 慌てて抜き返すと、また抜かれる。ハイになってるのか、頭の中で色んな妄想ストーリーが展開される。 「おさむらい様おねげえだ。おさえちゃんは連れてかねえでけろ。年貢は必ず納めるずら。」「ぬはは、ならぬならぬ。安心せい、そちの分まで可愛がってやるわい。ぬはは。」 「あさえちゃあああん!!」 「さだきっつぁああああああんん!!」 ドゥービー・ブラザースの"long train running"で正気に返った。いくらなんでも、時代劇に合う音楽ではないから。この渡良瀬のコース、なぜか途中1箇所だけ音楽が流れている。さっきはクイーンの"we are the champions"だった。たとえばあまり沿道の人達や、他のランナーと話したりしそうにない時は、MDでも持って景気つけながら走るのもテかな、とふと思う。 しかし2週目という事は、気がつけばもうすぐ25kmだ。ここまで大事を取って、5kmおきに止まってはストレッチをしている。そのおかげか足はまだ元気。そうして遅れをとっても、またおさえちゃんとぶるうたすを探し、追いつくことで一定のペースも保てている(おさえちゃんを探すと、そこにぶるもいた)。2人には感謝、感謝だ。1週目のこの辺りではチーさんが、カメラを構えて待っていてくれた。だから意識して、無理して顔を引き締め、カッコつけて走る。「あれ、なんだよ撮らないの今回は?何だったら、脱ぐ?」 その代り彼女は、他のメンバーの様子を教えてくれた。大体15分くらい前に通過したらしい。「みんなはえ〜なあ〜。」エイドで名物のトマトをいただき、さあ後半戦の開始だ。未知の世界を、どう走ろう、何が起こるだろう、その先にどんな自分がいるんだろう? しつこくつづく。 |