タクさんのレース完走記その1  
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2003ホノルルマラソン初フル完走記   2003年12月14日

スクールバスの中は大騒ぎ
「うー寝られん」
せっかく早く夕飯を済ませてベッドに入ったのに、遠足前日の小学生じゃあるまいし、ちっとも寝付けない。となりのベッドでグーグー寝ているペンギンが羨ましい。
午前1時15分モーニングコールの電話が鳴る。
"Wake up time. It's 1:15!"
ちょっと待ってくれ、僕が依頼したのは2時15分のコールだよ!オペレータのお姉さんに、
"I said, 2:15 !!!!ばーろー!"
どうせ寝られないのだから1時でも2時でも関係ないんだけどね。1時間後ご丁寧にもう1回モーニングコールがあった。今回は"Thanks!"と言って電話を切った。
昨日中に用意してあった朝食を食べ、着替えて、いざ出陣。ホテルから徒歩数分の所からスタート地点行きの臨時バスが出るのだが、周辺のホテルから続々と数百人が集まってくる。聞く所によると、主催者側で全島のスクールバスをかき集めて出場者をピストン輸送しているとのこと。日本からツアーできている人たちは旅行会社が手配するバスに乗ってスタート地点に行くため、主催者が手配するスクールバスに乗るのは欧米人ばかりでした。バスを待つ行列の中でふと気がつくと大男に囲まれている。臆せずにペンギンが尋ねた。
"Where are you from?"
"We are from Netherlands."
なんとオランダ人ではありませんか。数十人の団体で、20時間以上かけて来たそうだ。乗り込んだバスの中はもう大変な騒ぎ。英語はもとよりオランダ語、フランス語、スワヒリ語?がわいわいと飛び交い、内気な日本人としては隅っこで小さくなっているしかありませんでした。

スタート地点脇のアラモアナ公園
10分程で到着したアラモアナ公園はいたるところに照明が取り付けられて、その下に何千人もの人たち、そのほとんどが日本からの団体さん、が準備運動をしている。簡易トイレの前にはすでに長蛇の列。2〜300m離れた、公園の常設トイレまで行ったら、ここは楽勝だった。ストレッチとウォームアップをして、30分前つまり午前4時30分頃スタート地点に並んだ。午前5時、盛大な花火とともにスタート!スタートラインまで10分ぐらい人ごみの中をノロノロ歩いたかな。でもスタートラインからはちゃんと走れるから不思議なものだ。12月14日(日)午前5時、日本時間では15日(月)午前零時のことです。
ホノルルマラソン参加を決めて1年半、ついに無事スタートラインを越えるえることができました。

42.195kmの旅の始まり
真っ暗な中、ライトに照らされた道を走り出した。さあ、いよいよ42.195kmだ。
目標はハーフのタイムの2倍に1時間を足した4'30。計算上は前半2'10、後半2'20で達成だ(^^♪。へっへっへ、楽勝だぜぃ!
これがいかに甘い見通しだったか、このあと嫌ってほど身にしみることになるとは、タク君はこのときは夢にも知らないのでありました。

照明があるとはいえ、スタートしてしばらくは走りにくかった。足元が不案内な上、極端に遅い人や既に歩いている人がいる。そういう人はもっと後ろからスタートしなくちゃ危ないではないか。ジグザグに走らざるを得ないから、自分のスピードがさっぱり判らない。

朝5時過ぎというのに沿道では応援の人がたくさんいる。給水ポイントでは小さな子供まで紙コップを手に"Water、Water"と言っている。きっと午前2時頃から準備を始めてくれたんだろう。レースを支えてくれるボランティアの人たちには心から感謝。ワイキキビーチの付近までの7〜8 kmを一緒に走ったところでペンギンとは分かれてマイペースのランを開始した。10km地点に着いたところの時刻表示板を見て我が目を疑った。1時間20分!いくらなんでも遅すぎる。こんなこたぁしちゃおれん、と気合を入れなおして走り出した。空が白んできた頃ダイヤモンドヘッドの上り坂にさしかかったが、ここで急に道が細くなり、渋滞で思うように走れなくなった。と、反対側を我々の5分前にスタートした車椅子のトップグループが来るではないか。ここからゴールのカピオラニ公園までは2 km位だから、1時間半で42kmを駆け抜けることになる。すげー。

ダイヤモンドヘッドを下って住宅地に入る。沿道の市民は"You're lookin' good!" とか "Lookin' great!" と声援してくれ、いたるところで生バンドがランナーを励ましてくれている。ロックのリズムはいいけれど、たまにハワイアンの演奏がある。ハワイアンのリズムはランニングにはちょっと合わず、ペースが乱れそう。でも、ウクレレを弾くおじさんに"Hi!" と手を振るとニッコリ微笑み返してくれ、アロハパワーをもらうことができた。

やがてハイウェイに入った。下り車線をコースに開放しているため、グリーンベルトで仕切られた上り車線を車が双方向に走っている。ここで、既に折り返して戻る特急ランナーとすれ違った。さすがに早い。相変わらず群れて走っているこちらと違い、戻ってくるランナーは縦一直線だ。おお、すごい!あのランナーは右足が擬足じゃないか!膝から下が擬足にもかかわらず、多分サブスリーだ。世の中すごい人がいるもんだ。

そうこうしているうちに、ようやく中間点。な、何と2時間30分もかかっている。やばいなー。スピードが出ていないことは何となく判っていたけど、こんなことでは到底4'30は達成できない。気を取り直して朝日に向かって走り出した。長い長いハイウェイを降りてHawaii Kaiの住宅地へ。ここの家々は裏まで入り江が入り込んでいるので、表に車、裏にモーターボートが置いてある。約4kmの周回をして西に向きを変え、ワイキキを目指す。背中に陽を浴びながら再びハイウェイに乗ってしばらく行くと30kmポイント。このあたりから右膝の上の筋肉、後で調べた医学用語でいうと「大腿四頭筋の内側広筋」、平たくいうと「膝の上の内側のポコッと盛り上がっている筋肉」がおかしくなってきた。「あと10km。持ってくれよ、持ってくれよ」と語りかけるも、ついに悲鳴を上げ始めた。

大腿四頭筋との壮絶なバトル

なだめすかしながら走りつづけたけど、とうとうツッてしまった。路肩でしゃがみこみ、しばしストレッチともみもみをしてコースに戻ったけど、ここからが苦闘の始まりだった。「ストレッチのために立ち止まってもいいけど、絶対に歩かない。走り続ける」と決めていたので、ゆっくりでもとにかく走るようにした。最初の頃は1kmごとにストレッチだったけど、次第に間隔が短くなってきて、ダイヤモンドヘッドの上り坂にさしかかったときは100m走ってはしゃがみこんでストレッチしなければならなくなった。たいした坂道じゃないんだけど、苦しかった。すでに左足もイカレ始めて、バチバチと火花が飛んでいる。走ってはいるのだけど、歩いている人とさして変わらない速さ。何度も何度も立ち止まってはストレッチを繰り返し、ようやく坂の頂上に達した。

視界が開けた左手には、真っ青な空を背景に広大な南太平洋が水平線のかなたまで群青の輝きを見せている。う、美しい…。何という素晴らしい光景だ。映画のシーンなら間違いなくここで滂沱たる涙を流して傍らのヒロインと抱き合うところなのだろうけど、現実のランナーは足を叱咤激励して残りの3kmを走らねばならない。下り坂が始まったけど、下りも足への負担は大きいようでやはり何度も止まってしまう。
ゴールまであと2kmに迫ったところで僕の体の中で何かがはじけた。

不思議な体験と感動のフィニッシュ

全く何の前ぶれもなく、突然足が動き始めた。半信半疑ながら「よし、行くぞ!」と脚に声をかけると、両脚は嫌がらずに応えてくれる。「え?いったいどうしたんだ?」と聞きたくなるような豹変ぶりにもうびっくり。そのまま坂を駆け下りどんどん加速してゴールのカピオラニ公園の入り口に入った。公園の入り口からゴールまでは約1kmの直線コースで、左右にはたくさんの人たちがびっしり詰めかけ大声援を送ってくれている。自分でも全く信じられないほど軽快に最後の直線コースを走っている。決して力づくのがむしゃらな走りじゃなくて、極めてスムーズに、すいすいと、前を走るランナーをどんどん追い越していった。残り300mぐらいで気がつくと他のランナーは皆右寄りに走っている。そこでコースを左に取ったら前方100mは誰もいない。声援に包まれながら、軽やかに軽やかにどんどんスピードに乗って前方に見えるフィニッシュライン目指して走っていると、自然と顔がほころんでくるのが分った。最高の気分。まるでヒーロー。そのまま歓喜のゴール!思わず両こぶしを空に突き上げガッツポーズだ。

タイムは5'22'47。予定よりも1時間も遅いのは残念だけど、初フルを完走できたので、とりあえず良しとしようか。4時間半は次回のお楽しみ。大腿四頭筋を鍛えなおして出直しだ。

〔補遺〕
翌朝、筋肉痛もなかったのでワイキキの浜辺をペンギンと軽くジョグ。なかなか快適だった。浜辺にいたアメリカ人風のおばさんにペンギンが得意技の"Where are you from?" と尋ねると、地元の方で、昨日が何とホノルルマラソン17回目だという。しかも、5年前から心臓にペースメーカーを入れているのだそうだ。二人で「ははーっ」とひれ伏しました。